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星祭り
Star Festival
この季節にウータイへ足を運んだのは偶然だった。
久々に訪れたこの国では、街の至るところに、幹に節のある背の高い植物が飾られ、さらにその細長い葉には色とりどりの装飾がぶら下げられている。
「星祭りの時期だったか」
「みたいだな」
ぽつりと独り言のように呟いたヴィンセントの声が聞こえていたのだろう、隣を歩くクラウドが立ち止まり短く応じる。
行き交う人の中には、浴衣というこの地域独特の衣装を身にまとった人の姿もちらほらと交っている。
彼らが生まれた頃の時代、世界はある一つの企業の元に統一され、文化や生活習慣もまた地域ごとの特色を失い、均一的なものとなっていった。
そんな世界の中、伝統を捨て去ることなく、独自の文化を色濃く残したのがこのウータイエリアだった。
独特の行事があるごとに、仲間を集めてはお祭り騒ぎを好んだウータイの忍者娘。
星祭りの季節にこの地へ呼ばれたことも、一度や二度のことではなかった。
人の流れの中、同じことを思ったのだろう、立ち止まった二人は顔を見合わせクスリと笑うと、やがてすぐにまた歩き出す。
「年に一度の逢瀬、だったっけ?」
ふとクラウドが口にしたのは、星祭りにちなんだ伝説だ。
「ああ……会うことを禁じられた夫婦が、年に一度だけ逢瀬を許された、そんな話ではなかったか?」
「会うことの出来ないはずの人と年に一度だけ……ね」
「なんだ?」
「いや……あんたさ、そういう相手いる?年に一度でもいいから会いたい人」
いささか意地の悪い質問だろうか。
口にしてからそう思う。どうも昔から自分は、ヴィンセントに対して遠慮のない質問や相談をしてばかりいる気がする。
背の高い彼の表情を伺おうと、ちらりと斜め上へ視線を向ける。
その刹那、彼もまた、紅い瞳をクラウドへと向け、視線が重なる。
「…お前は?」
重なった視線を互いに反らすことなく見つめあったまま数瞬、そしてゆっくりとヴィンセントはまた道の先へと視線を戻しながら、穏やかにクラウドへと問う。
「……」
紆余曲折の後、共に生活を営んだ黒髪の幼馴染。
一緒に過ごした時間は本当にわずかだったが、彼の人生にとてつもない影響を与えたセトラの少女。
もう会うことのない、けれども会いたい人たちならば他にもたくさんいる。
不甲斐無かっただろう自分を支え旅をしてくれた仲間たち。
自分を守りすべてを自分に残してくれた親友。
その親友が愛し、自分もまた誰よりも憧れ、けれども最後はこの手で葬ってしまった彼の人にでさえ、会えるものなら会いたいと思うのだ。
「やっぱ、こういうのって誰か一人だけだよな」
「どうだろうな」
小さく呟いたクラウドに、相変わらずの落ち着いた声音でヴィンセントは答える。彼の声に、わかったか?という響きが感じられるのはクラウドの気の所為ではないだろう。
「誰か一人だけっていうのは無理だな、選べない」
彼もまた同じなのだ、と悟る。詮無いことを聞いてしまった。
結局のところ、彼に甘えているのだろう。それは昔から変わらない、変えることのできないクラウドの一部分であり、二人の関係の礎となっている部分でもある。
そしてその甘え故に素直に口にできない謝罪の代わりに、せめて正直な己の気持ちをクラウドは告げることを選ぶ。
「誰か一人とだけ会えるくらいなら、俺はこのままで良い……と思う」
再び人の往来の中、クラウドが立ち止まる。数歩離れたところで、ヴィンセントも立ち止まった。
その背の高い後ろ姿に、さらにクラウドは続ける。
「あんたが、いるから」
ヴィンセントの長い黒髪がさらりと揺れ、彼が振り向く。
「そうか」
ほんの少し、紅い目を細め彼は微笑った。
そして、たくさんの見知らぬ人の波にのり、彼らは再び歩き出した。