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on his holiday

「ヴィンはあつくないの?」

 ある晴れた夏の午後、屋敷のサンルームで、セフィロスはヴィンセントにそう問いかけた。

「それほどでは…何故、急に?」
「ふゆとおんなじだよ、そのおようふく」

 長袖の紺のスーツ。一番上まできっちりとめた白のシャツ、ネクタイまでしている。
 見るからに暑そうな格好だと思う。

「制服だからな」
「せいふくってなに?」

 小さく首をかしげて尋ねた。

「仕事の間はこれを着てなければならない。そういう決まりなんだ」
「おしごとのとき?」

 ヴィンセントは笑ってそう言った。
 けれども、セフィロスはその答えにほんの少し悲しくなった。
 だって、セフィロスの知っているヴィンセントはいつもこの紺のスーツを着ている。
 それ以外の服装の彼を見たことがない。
 だが、紺のスーツは仕事の時にだけ着ていればいいらしい。
 つまり、ヴィンセントがセフィロスと一緒にいるのは、仕事の間だけだということだ。
 仕事、というのは、誰かに命じられたことをしなければいけない事だ。
 それが嫌なことでも、仕事であればやらなくてはいけない。
 セフィロスにとっての「検査」や「実験」と同じもの。
 科学者たちにセフィロスが「検査だから来なさい」と言われるのと同じように、ヴィンセントも、誰かに言われたのだろうか。
 『セフィロスと一緒にいなさい、それが仕事だ』
と。

 セフィロスはそこまで考えて、とても悲しくなってしまった。
 もしかしたら、ヴィンセントはセフィロスと一緒にいたいわけではないのかもしれない。
 仕事だから、一緒にいるだけなのかもしれない。

「セフィロス?」
「…ヴィン…」
「どうした?」

 ヴィンセントに顔を覗き込まれた。セフィロスの大好きな、綺麗な紅い目。

「ヴィンはいっつもおしごとなの?」
「……いや、一応、今日は休暇…ああ、お休みの日、だが」
「ほんとう?!」
「ああ…どうしたのだ、先ほどまで泣き出しそうだったのに」

 ヴィンセントが、髪を撫でてくれた。大きな手も、ヴィンセントは大好きだ。
 今日はお休み。
 仕事ではない日。
 なのに、セフィロスと一緒にいてくれている。セフィロスのところに来てくれた。
 良かった。
 セフィロスは、今度はとてもとても嬉しくなる。

 けれども。

「どうして、せいふくなの?」

 お休みでしょう?着なくてもいいんでしょう?
 何でだろう。

「それは……」
 ヴィンセントは窓の外を見て、それから言った。
「セフィロスはこの服は嫌いだろうか?」

 そんなことはない。
 だから慌てて首を振った。

「ううん。だいすきだよ。ヴィン、かっこいいもん」
「そうか」


 ヴィンセントはそう言って、またくしゃりとセフィロスの髪を撫でてくれた。

「うん。でも、こんどのおやすみのひは、べつのおようふくきてね?」
「…え?」

 制服じゃない服を着ている日は、仕事ではない日。
 仕事ではないけれど、セフィロスと一緒にいる日。
 きっと、嬉しいと思う。

「やくそく、ね」
「あ、ああ……」

 紺のスーツではないヴィンセント。
 けれど、どんなに考えても、そんなヴィンセントは想像できなくて、セフィロスは次の休日が、とても楽しみだと思った。

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