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期日は未定
dates to be aranged
数歩前を歩く人の、流れるような銀糸を眺めながら、いつミッドガルに帰れるのだろう、とぼんやり思う。
今朝まで別の現場にいたのに、ミッドガルに戻ることなく次のミッション。
まぁ、俺はいてもいなくても会社的にはどっちでも良かったんだろうけど。
でも俺がいるのが当たり前のように「行くぞ」なんて言われたらそりゃあ喜んでついて行くしかないだろう。
もちろん、一人で行かせる気もなかったけどな。
そんなことをとりとめもなく考えているうちに、目的の場所についたようだ。
通されたのは、普段あまり争いごととは縁のなさそうな地域にある神羅軍基地の会議室。
日ごろの平和だったのが仇となったのだろう、反乱が起きたが平和慣れしている基地駐屯の隊だけでは対処ができず、本社に泣きつき、示威も兼ねてということで英雄セフィロスが派遣された。比較的よくある流れの話である。
「わ、わざわざご足労頂き……申し訳ないやらお恥ずかしいやら……おい、お前早く例のものを持ってこないか!」
ここに着いてまだ数十分だけど、それ聞くの何度めだろな。
ザックスは半分呆れつつ、まぁトップがこれなら仕方ないよな、と半分納得もしつつ、隣に立つセフィロスの顔をちらりと盗み見る。
「いえ、仕事ですから」とそつなく答える無表情の白皙の面。
軍のお偉方など、大半が自分やセフィロスよりも年長なのは当たり前なのだが、彼らがセフィロスに対したときの反応は概ね二つだった。
人間離れした美貌に魅入られるか、しょせん本社のお飾りがと見下すかのどちらかだ。この基地の司令官は前者らしい。
偶然にも、反神羅組織がこの基地に対して起こした行動の一部始終が監視カメラの映像に収められていたのだと言う。
まずはその映像をということで、この会議室に通されたのだが、だったら用意くらいしておけとザックスは思う。司令官に怒鳴られ部下らしき兵が出て行ったが…正直、時間がもったいない。
そう思ったのはセフィロスも同様で、
「簡単で結構です、経緯を」
そう口を開いた。
「は……3日前の夜中になりますか、突然基地の東のほうで火の手が上がりまして……決して見張りが不十分だったなどということはなく、規定通りの人数で見周りにもあたっていたのですが……」
こいつ、報告がしたいのか、言い訳がしたいだけなのか。
いい加減にしろと叫ぶか溜息をつくかしたいところをぐっと堪えるザックスだが、隣のセフィロスもどうやら同じらしい。黒革の手袋に包まれた左手の指先が、ほんの微かだけれども苛立たしげに動いている。
「お待たせ致しました」
結局、事前に本社経由で受けた報告以上の情報を得られることのないまま、先ほど出て行った下士官が戻って来た。手にしたテープを司令官に渡し、部屋の隅へと控える。
お待たせして申し訳ない、だの、まったくさっさと持ってこないか、だのごちゃごちゃと口にしながら、司令官は予め会議卓の上に置いてあった再生機器へとテープをセットする。
もはや司令官の独り言なのかさえはっきりしない言葉など聞いていないセフィロスとザックスの視線は、再生が始まるのを待つばかりのモニターへと注がれる。再生機器と同様、会議卓に置かれたモニターはさほど大きくもなく、どちらかと言えば旧型のものだ。
あまり鮮明でない映像が流れ始める。
映っているのは数名の男。顔を堂々と晒している。
「……何が偶然か」
ザックスの耳は、セフィロスの低い呟きを逃しはしなかった。ふん、とザックスは小さく答える。
『偶然』彼らの映像が残ったのではない。わざと彼らはカメラに映ったのだ。馬鹿にするにもほどがある。
ざぁぁぁ……
ぶつり、と突然映像が途切れた。モニターの画面は砂嵐になる。
これで終わりか?と二人が司令官へと目を向けると、慌てたように機器やらモニターやらをいじり始める。が、一向に画面は一面の砂嵐。
「マテリアだったか?」
「おそらく」
「結構使えるみたいねぇ」
「お前より使えるかもな」
「どーせ俺は魔法が苦手ですよ」
映像が途切れる直前、鮮明でない映像の中ちかりと光ったのはマテリアのようだった。
直る気配のないモニターと焦る司令官を尻目にザックスはセフィロスに確認を取る。軽口を返すセフィロスだが、頭の中ではいくつかの作戦を考えてい るのだろう、どこか遠い目をしていた。
これは話しかけないほうが良いな。
そう判断した、ザックスは仕方なく司令官へ声をかける。
「大丈夫っすか」
「あ、ああ……おかしいな……」
これは自分がいじったほうが早い気がする。
「ちょっといい……あ?」
ザックスがモニターの裏側を覗こうとした瞬間、さらりと真横を銀糸が流れた。
「失礼」
考え事をしていたはずのセフィロスが、モニターの前に立ち。
がんっ!
モニターの横っ面を、平手で叩いた。
「……やはりマテリアか……」
セフィロスの一撃であっさりと再び映像を流し始めたモニターを見つめ、彼は一人そう呟く。
そんな英雄の背中を見つめ、司令官とその部下は凍りついたように微動だにしない。突然のセフィロスの粗雑な行動に余程驚いたらしい。
何とも言い難い雰囲気の、セフィロスと基地の二人を見比べ、ザックスは今度こそ本当に溜息をついた。
……絶対無意識だろ……。
司令官主従は、英雄の機嫌を損ねたかと内心恐怖の嵐だろうが、セフィロスにそんなつもりは毛頭ない。確かに若干不機嫌ではあったが、それで何かに八つ当たりをするようなタイプではない。
……つか前にも同じことあったよな、どっかの戦線で。
何、いきなり?と驚いたザックスに、機械の調子が悪い時は叩けば直ったりするものなのだろう?と平然と答えたセフィロスを思い出す。テレビの映りが悪いときはとりあえず叩いてみろ、なんて庶民の常識を何故この英雄が知っているのか…未だに謎のままだったりする。
「この基地にいる兵たちのデータが見たい」
モニターに見入っていたセフィロスがくるりと振り返り、司令官に声をかける。
「はっはっはいぃぃっ!」
悲鳴じみた声を上げ、司令官は慌てて会議室から飛び出していった。部下が同じ部屋にいることなどすっかり忘れたようだ。
ばたんと大きな音を立て閉まったドアを不思議そうに首をかしげ見やったセフィロスは、再びモニターに視線を戻し、卓の上の機器をいじり、映像を巻き戻しては気になるポイントを再生する。
「あのさ」
残された下士官のもとへ音をたてずに近寄ったザックスは彼に、
「別にセフィロス怒ってないから。あんたの上司にもそう言っといて。あれ、ほんと何にも考えずにやっただけだから」
な?とにかっと笑ってそう伝えた。
無理矢理作った笑顔の下、ザックスは考える。
フォローしとかないと、やりずらくって仕方ないだろ……2、3日もすりゃ片付くだろうけど。
……ああ早くミッドガルに帰りてぇ。<
同日同刻、ウータイエリアにおいて大規模な反神羅勢力が武力蜂起の断行を決定。決行予定は3日後。
ザックスがセフィロスと共にミッドガルに帰れるのは数週間後になることを、この時点ではまだ誰も知らない。