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子守唄
lullaby
コンコンコン。
ノックを小さく三回。
「入れ」
ぞんざいな応答に肩を竦め、ドアノブに手を伸ばす。
その時ふと、部屋の主の在・不在を示すプレートが目についた。
馬鹿正直に在室になんてしなきゃいいのに。
そう思ったので、不在にしておく。
ドアを開けて、オフィスへ入る。
「ちぇ、やっぱりバレた。気配殺して来たんだぜ」
デスクチェアに座る人へ、お門違いな文句を浴びせつつ、後ろ手にドアを閉める。こっそり鍵も掛けた。
「確かに気配はほとんどしなかったな」
「んじゃ何?何で解ったのよ?」
「ツメが甘い」
「んだから、何」
「この部屋で
……そーいうことですか。
ま、良いけどね。俺だけの特権でしょ。
「ちょっとくらい休めたワケ?」
アンタ、昨日から寝てないでしょ。言外にそう匂わせ。セフィロスの顔をちらりと見やる。
「……?何だ?」
聞いていなかったらしい。
「いんや、何でもない。だいじょぶ?」
「さすがに、ねむい」
昨夜ミッションから帰って、すぐに壱番街で立てこもり事件があって呼び出されて。朝まで後処理。これはザックスも付き合った。そのまま今度は本社の重役会議とやらに出ていたはずだ。英雄という非公式ながら確固とした地位にあるセフィロスだが、それでなぜ重役会議の議席が確保されるのかは本人にもよく解らない。
「だよな。寝ちまえよ」
「いや、大丈夫だ」
心配している様子を見せると、この人は無意識に気を使う。
他人に無関心そうで、時に天然で、でも本当は人一倍感受性が強い。
大丈夫だって言うと思ったんだよなー。
どうするかな、としばし考え、そして、ちょっと行儀は悪いがセフィロスのデスクに腰かける。椅子に座ったままのセフィロスが訝しげに見上げてくるのに、ニッカリと笑い返した。
「いいから寝ろ。俺が子守唄歌ってやるから」
「……遠慮、しておく」
小さくセフィロスが笑う。
「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ」
そう言って口ずさんだのは、今ミッドガルで流行中のラブソング。
恥ずかしくなるくらいにストレートな愛の言葉をメロディに乗せつつ、銀の髪をそっと撫でる。何度も。
歌詞のわからない部分は、適当なハミングでごまかしつつ、それでも歌が二回目の終わりに差し掛かる頃。
「……いち、じかんご…に……」
椅子に掛けたまま、俯くセフィロスが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「うん、解ってる。明日からのミッションの打ち合わせ、な。忘れてないよ、大丈夫」
「……なら、いい……」
南西の向きにある大きな窓からオフィスに差し込むのは、傾きつつある陽の光。
夕日を受けるセフィロスの髪がほんの微かに赤く染まる。
ある暖かい春の日。
夕暮れ時、タイムリミットまであと55分。