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BLOOMING BOUQUET

 余計なものは、何一つ置かれていない、殺風景な部屋だった。
 部屋の主とどこか似ていた、綺麗だけれど無機質に整えられた場所。
 其処には少しずつ少しずつ、色々な物が増えていく。
 部屋の主の表情もまた、少しずつ少しずつ、豊かになっていく。

 今日、此処に持ち込んだのは、花束だ。
 彼が事ある毎に贈られているような、高価で豪奢な花束ではなく、野に咲く花を寄せ集めた小さな花束。
 どんなに贅を凝らした花束を貰ってもオフィスに置いてきてしまうせいで、この部屋には花瓶なんてものは無い。
 だから、食器棚からグラスを一つ選んで、そこに活けた。
 花瓶よりも、ずっとこの花達には似合っている、そんな気がした。

「ザックス?」
「あ、おかえり」

 花を活けたグラスを手にしたまま、どこに飾ろうかと部屋を見渡していたところに、部屋の主が帰ってきた。

「あぁ…何を?」

 何をしている?と問われる。いつも、この人は言葉が少ない。
 だがこれでも大分多くはなった。以前は「おかえり」と言っても無言が返ってくることも珍しくはなかった。
 いずれは「ただいま」と言わせたいと思っている。少しずつ、変わっていけば良い。

「可愛いだろ?あんたにお土産」

 グラスごと、花をセフィロスに手渡す。
 彼は不思議そうに首を傾げながら、おとなしくグラスを受け取った。

「貰いモンで悪いんだけどさ」

 笑いながらそう言って、手の空いたザックスはキッチンへと入っていく。
 対面式のカウンター越し、湯を沸かし茶を淹れる準備をしながら今日一日の出来事を話し始めた。
 プレートの下のスラムに出かけたこと。
 最近親しくなった女友達のこと。
 彼女が花を育てて売っていること。
 花を売るのを手伝ってきたこと。
 彼女が残った花で花束を作ってくれたこと。

「誰にあげるの?って聞かれちまった」

 女の子って鋭いよな、と苦笑する。特に彼女は勘が良い。
 彼のことを話したことはなかったが、大切な人がいることはあっさりと見抜かれた。
 気に入ってもらえたら嬉しいな。
 そうニッコリと笑いながら、花束を手渡してくれた。

「何と……」

 それまで相槌を打つでもなく、ただ黙って話を聞いていたセフィロスが口を開いた。

「ん?そりゃあ、まぁ、大事な人ってヤツ?」
「……」
「何?照れてる?」
「別に……」

 自分から聞いておいて、そっけない態度。
 それでも気にしてくれたことが嬉しい。
 マグカップ二つに紅茶を淹れて、リビングの中央に置かれたソファセットへ運ぶ。互いに向かい合ってソファへ腰を下ろす。

「花束なんて貰い慣れてるかもしれないけどさ、たまには良いだろ、こういうのも」

 いつものとは違って可愛いヤツだけどな。
 熱い紅茶を啜りながら言うと、ローテーブルに置いた花のグラスへと長い指を伸ばしセフィロスは微かに首を振った。

「懐かしい、匂いがする」

 伸ばした指で、そっと小さな花弁に触れる。
 同時に発せられた小さな呟き。

「そっか。良かったな」

 セフィロスの声音に、自然にそんな言葉が出た。
 それは自分でも驚くような優しい声で。
 やがて。

「…ありがとう」

 小さな花びらを何度も撫でながら、ぽつりと彼が零す。

「……」

 驚いて、一瞬言葉に詰まった。
 だから、

「いーえ、どーいたしまして」

 ちょっとおどけて、そう答えた。

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