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keeping you sweet

「今日はヴァニラか?」

 この数日、珍しくも二人のオフが重なっている。
 同じミッションへ出る機会は多く、共に過ごす時間はそれなりにあるのだが、まったくのプライベートで二人きりの時間、となると実はそれほど多くはない。二人とも神羅の誇るソルジャークラス1st、殊にセフィロスは英雄と呼ばれる立場である。仕事が忙しく、二人揃ってのオフなどなかなかあるものではないのだ。
 そんな状況の下、偶然とは言え非常に貴重な休日に恵まれ、ザックスもセフィロスも休暇を充分に満喫していた。
 もっとも、二人でどこか…たとえばコスタあたりにバカンスに行くでもなく、ただただ本社ビル内にあるセフィロスの部屋でのんびりとしているだけなのだったが。
 緊急事態だと呼び出されることもなく、日常となりつつある慌しさを忘れ去ったような休暇も、今日で終わりとなる。
 数日間、飽きるほどの時間を共に過ごしたというのに、バスを使ったセフィロスがリビングへ戻ってくるや否や、ザックスはいそいそと彼の側へと寄っていく。
 もちろん、その手に冷たいミネラルウォーターは忘れない。

 まだ生乾きの長い髪が気になるのだろう、銀糸を鬱陶しげに掻き揚げるセフィロスに冷たいグラスを渡してやりながら、ザックスは言う。
「おお、やっぱヴァニラで当たりだな。いー匂い」
 セフィロスが髪を掻き揚げるとその拍子にシャンプーの香りがふわりと漂う。
 朝でも夜でも、自室でもたとえ戦場であっても、いつも変わらず淡い光を放つ彼の銀の髪だが、そこから漂う香りは日ごとに異なっている。
「そうか?」
 ただし本人にはあまり興味のない事のようだが。
 セフィロスの隣に腰を下ろしたザックスは、銀髪を一房手に取り、匂いを嗅ぐふりをしながら戯れに口付けてみる。
「うん。美味そう」
「食えないぞ」
「でも喰いたい。甘いよな、絶対」
「俺は食べ物じゃない。だから無理だ……っ」
 そっと手を伸ばして、銀糸をかき分けて。
 露になったセフィロスの白い首筋にキスをする。
 食べてしまいたい。
 本能に流されればきっと噛み付くようなキスをしてしまうであろう自分がいるから、敢えて触れるだけのキスをする。
 跡も残さない。きっと彼は嫌がるに違いないことも解っているからだ。
「喰ってもいい?」
 けれど、そんな優しい行為は思いやりでも気遣いでもない。
 だって、これは駆け引きなのだ。
「だから俺は食べ物では」
「うん、じゃあ抱かせて」
 ザックスが蒼い瞳をまっすぐに向けると、その視線の先でセフィロスは微かに翡翠の瞳を震わせて、そしてふいっと顔を背けてしまう。

「……髪を乾かしてからだ」

 どうやらこの駆け引き、ザックスの勝ちに終わったようだ。

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