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Bonus Time

「たまには良いだろ、こーゆーのも」
「落ち着かない」

 膝丈しかないルーズなズボンは涼しいけれど下半身がすーすーする気がするし、滅多に着ないTシャツも汗を吸って機能的だが剥き出しの両腕がじりじりと焦げるようだ。サングラスは特徴的な瞳を隠すのに一役買っていて、ついでに眩しすぎる日差しを遮ってもくれていて大変に有り難いが、それとは対象的に、サンダルを突っかけただけの足下は、正直、歩きにくいだけだった。
 
「こんな格好で、何かあったらどうするんだ」

 武器を携行していないのは、まぁオフだから仕方ない。しかし、これでは走ることも儘ならないだろう。
 
「なーんもないでしょー、せっかく休みもぎ取ったんだし」
「それはただのお前の希望だ」
「そりゃそーだけど」
「一応、ミッションで来たのだし」
「でもオフでしょ、今日は」

 だから今まさに、ノンビリしようぜ、と強引に外に連れ出され、ぶらぶらと海辺を歩き回っているのだが。
 コスタ・デル・ソルの休日の過ごし方としてはこの上なく正しくはある。
 
「オフん時くらい難しい顔すんなって」


 そう言われると、ますます眉間に皺を刻むことになり、隣を歩くザックスはげらげらと笑っている。

「きゃあああああ!誰かその男、捕まえて!!」

 悲鳴と、ドロボウ!という叫び声が響く。
 声の聞こえた方を見れば、女性から奪ったのだろう、高級ブランドのバッグを小脇に抱え走り去っていく男がいる。

「ちっ」

 こういう事があるかもしれないから困るのだ。思わず舌打ちが漏れた。
 それでもとりあえず、捕まえなければと思い、隣の男に声を掛け走り出そうとする。
 
「ザッ……」
「っっりゃああああああ!!!!」

 ひゅん!と空を切る音が聞こえ、振りかぶったザックスの手元から何かが飛び出していく。
 先ほどまでザックス自身が履いていたはずの、サンダルだった。
 
 ソルジャーの全力投球だ、サンダルが弾丸さながらに飛んでいく。
 
「っしゃあ!ヒットお!!」

 サンダルにはあるまじき、ばこん!という音と同時に、逃げていた男が前のめりに倒れる。
 雄叫びと共に、履いていたもう一方のサンダルをその辺に脱ぎ捨て裸足で駆け出していたザックスが、すかさずその背にのし掛かった。
 
「あー、そこのおにーさん、悪いんだけど、ケーサツ呼んできて」

 
 ザックスが脱ぎ捨てたサンダルと、犯人の男に当たって地面に落ちたもう片方のサンダルとを拾うと、集まり始めた野次馬に指示を出しているザックスの元へ向かう。
 サンダル一揃いをザックスの前に置いてやり、次にそばに落ちていたバッグを拾い上げる。
 持ち主はと周囲を見渡すと、おずおずと女性が野次馬の輪の中から進み出てきた。
 
「貴女の?」
「……はい」
「中身、だいじょぶ?オサイフとか入ってる?」

 未だ地面に伸びた犯人の背に乗ったままのザックスが声もかけてきた。
 
「あの、ありがとうございました」
「いーの、いーの。あ、お巡りさん来た」

 現場にやってきた警官に犯人を引き渡し、そのまますぐに立ち去った。
 連絡先を控えさせて欲しいと、警官、被害者の両名が食い下がったが、ザックスが適当に言いくるめてしまった。

「やー、サンダル便利だわ」
「……」
「何でも武器になるもんだねー」
「偶然だ」
「ま、何とかなったんだから、良いってことにしとこーぜ。名前もなーんもケーサツには教えてないから報告書もいらんでしょ」
「一応、俺はお前の上官になるんだが」
「あー、じゃあさ、頑張った俺にボーナス頂戴よ」

 何故そんな話になるのだろうか。
 
「そうと決まればさっさと仕事終わらしてミッドガル帰るぞー!」
「ちょっと待て、ボーナスとは何の事だ?」
「何言ってんだ、決まってるだろ」

 ザックスがにやにやと笑いながら、耳打ちで具体的な賞与を要求する。
 
「……っ……却下だ!」
「なんでっ!?」

 くだらない、とザックスを置き去りに早足で歩き出す。
 その後を、文句を言いながらザックスが追いかけてきた。

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