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Count Down

「あーあ、こんなとこでなにやってんだろうなぁ……」
「……ミッションだろう」

 がりがりと後頭部をかきながらぼやくと、隣に立つ上官からはそっけない答えが返ってくる。

「わかってますよー」

 年の瀬も押し迫った頃に突然入ったミッションに駆り出され、ザックスはセフィロスと二人、現場に来ている。
 本来ならば自宅でゆっくりと、二人でダラダラと休暇を満喫しながら年を越すはずだったのに。
 今ここで待っているのは、新しい年の始まりまでのカウントダウンではなく、突入までのカウントダウンだ。
 まったくもって、ついていない。
 冗談半分にふて腐れた態度で返事をするが、銀髪の英雄はすっかりと仕事モードに入ってしまったらしい。
 ザックスの相手をする気はないようだった。

 無線機に繋がっているイヤホンを耳に押し込み、すぐにでも剣を抜けるような態勢を作りながら、ただひたすらに日暮れと同時に出されるはずの突入の合図を待つ。
 ちらりと、ザックスは腕時計に目を落とした。

「5、4、3、」

 ふいに、長く続いた沈黙を破り、かすかな声でカウントを始める。
「2、」
 そんなザックスを、セフィロスが訝しげな表情で見やる。

「1」
「急になん」
「Happy new year!」

 にっと笑いながら告げると、セフィロスも自身の時計に視線を落とし、
「……ああ」
ぼそりと答えた。

 二人の前に広がる草原の向こう、今まさに太陽が沈まんとしているところだ。
 それはもちろん時差の関係で、ミッドガルの標準時はザックスのゼロカウントと共に新年を迎えていた。
 本来ならば、二人で祝うはずだった瞬間。

「セフィロス」

 名前を呼ぶと振り向いた男の顎を取ると、そのまま勢いで口づける。
 だが寸前で躱され、そして抗議と非難の言葉が振ってくる。

「仕事中だ」
「一分だけ忘れろ」

 予想通りの言葉を強引に封じ込めると、今度こそ噛みつくようにキスをする。
 今度は、抵抗はされなかった。
 きっとこんな仕事が入らなければ、今頃、自室でもっと熱いキスを味わっていたはずなのに。
 だが、やはり、いつどこでも恋人との口づけは甘いものだと思う。今はそれで十分だ。

 やがて、おとなしくされるがままだったセフィロスが、ザックスの身体を引きはがす。
「あんたさ……絶対、一分数えてただろ」
「……ふん」

 つい今さっきまで可愛らしくみえていたはずの秀麗な顔が、小憎たらしい。

「まぁいいけどさ……」

 それでも好きなものは仕方がない。言葉の後半は声に出さずに飲み込んだ。
 ふいに、ノイズと共に無線機が繋がる。ほぼ同時にヘリのプロペラ音が遠くから微かに聞こえた。

『待たせたなっと』
 無線機の向こうからは、馴染みのタークスの声。
『三分後に突撃だぞっと』
「了解」
 指示にソルジャー二人は同時に了と答える。
『……120…………90……』

 刻々と迫る突入の瞬間に向けて、二人はそれぞれのペースでゆっくりと愛用の武器を構える。

『4…3…2…1、』
 ゼロ、のカウントと共に二人は地を蹴る。

「新年のご挨拶といこうぜ!」

 裂帛の気合いと共に、強大なモンスターの巣へと切り込んで行った。

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