247

gallery≫novel

祝・DDFF 発売2周年

「一人にしてくれと言っただろう」
「…………」

 背後に近付く人の気配に、振り向かずとも相手は誰なのか分かった。
 あんなにも、近付きたいと思っていたはずの相手なのに。

 今は、顔を合わせることも嫌だった。

 自分が分からない。
 突然の変異。
 力だけでなく、この身の姿までが変わるとは、一体どういうことなのだ。
 
 あの白い聖域に、そこに在る女神に、そしてそこにに集う仲間達に。
 何もかもに不似合いな、漆黒の色、闇の力。
 
 彼が僕を避けたのは、この力を知っていたからなのだろうか?
 

「知ってたんだろう?……僕が、こんな邪悪な力を使うこと」
「……そうだな。お前の暗黒剣のことは、知っていた」
「暗黒剣?」
「お前がさっき使った力のことだ」

 ああ、やはり知っていたのか。

「……きっと、何かの間違いだったんだ」
「何が?」
「僕が、ここにいることは間違いだったんだろう?
 混沌のほうが、僕には相応しい」

 こんな、光の力と闇の力、どちらにも定まらない存在など、まさに混沌そのものだ。

「……何故だ?」
「え……?」
「何故、お前自身がその力を否定する?」
「だって、こんな忌まわしい力、あったところで何の役にも……!」

 役になど立つはずがない。
 冷静な彼の問いかけとは対象的に、ありったけの憎しみを込めて、否定をする。
 けれど。

「お前のその力が、さっきはヴァンを守っただろう」
「……まもっ、た……?」
「俺は、お前がその力でたくさんのものを守ってきたのを知っている。
 仲間たちや部下はもちろん、町や村も」

 彼は、何を言っているのだろう。

「…………」
「俺も、お前のその力に、何度も助けられてきた」

 僕達は、敵同士ではなかったのか?
 
「今は思い出せなくても良い。
 ただ、お前のその力は、お前が国や人々を守るために身につけた力だ。
 それを、否定はするな」

 不安的に揺れ続ける自分という存在が、急に安定を取り戻していく。
 
「あ……」

 一瞬のうちに、漆黒の鎧が、白銀の鎧へと変わる。
 カインも、僕の姿が変わる様に目を見張ったが、すぐに小さく笑う。
 いつの間に脱いだのだろうか、いつも被っている兜を小脇に抱えていた。
 この世界で初めて彼の素顔を目にしたはずだが、ただただ懐かしいばかりで、ひどく安心した。
 
「……だったら、どうして」
「なんだ?」
「どうして、僕を避けてた?」

 しばしの沈黙。
 小さく息を吐くと、カインが口を開く。

「お前のせいじゃない。……俺のほうが、ずっと」
 何かを語りかけて、いや、とすぐに言葉を止める。
「思い出せばすべて分かる」

 そう言うカインの顔が、少し寂しげに見えたのは気のせいだろうか。
 
「……思い出さないほうが良いことも、ある?」

 彼の表情を見ていてふと思い浮かんだ考えを、結局は、口にした。

「さあ……どうだろうな」
 曖昧な答えと同様、笑顔とも自嘲ともつかない表情で、カインが答える。

 そしてしばし、僕と彼の間には、沈黙が落ちた。

「そろそろ戻るぞ」
 
 カインの無愛想な声と共に、彼の手が差し伸べられた。
 その手を取って、立ち上がる。
 
 見上げた視線の先には、遠くに秩序の聖域が見える。
 本当に僕は、僕という存在は、あの場所に相応しいのだろうか。
 あの場所に集う、仲間達に相応しいのだろうか。
 
「僕が、戻っても……構わないんだな?」

 この力の真実を、この存在の真実を今は知っているのは、カイン一人だけだ。
 
「何をくだらないことを言っている」
「だが……」
「そんなヤツを、俺は親友と認めた覚えはないぞ」

「……え……?」

 今、彼は何と言った?
 僕は、彼にとって、本当に。
 
「行くぞ」



 未だ呆然と立ち尽くす僕を置いて先を行く親友の背を、追いかけ僕も歩き出した。

↑Return to page-top