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祝・DDFF 発売2周年

 この日は、聖域から多少離れたところまで足を伸ばしていた。   「敵だ!」 「イミテーションか!?」  湖のすぐ近くの森の中で、敵に囲まれた。  

 この世界に来てから、戦闘になるのはこれで何度目だろうか。
 戦うために喚ばれたのだから、剣を取るのは当たり前だ。
 しかし、喚ばれて間もなく、まだ記憶もはっきりとしないこともあって、聖域に残ることが多かった。
 だが今日は、僕も行くと名乗り出た。
 気になるひずみがあるからと、出かけようとしていた仲間達の中に、カインの姿があることに気付いたからだった。
 少しでも、話が出来れば……いや、近付きたかったのだ。
 彼に話しかける機会は無いままだったが。
 
 ライトニングの放った雷魔法が、敵の足を止める。
 そこに透かさず槍を構え飛び込んでいくカイン。
 彼が地面に叩き落としたイミテーションを、光の戦士が放った閃光の柱が貫く。
 
 仲間達の奮闘する姿を、視界の端で追いながら、目の前の敵の姿に集中する。
 未だ、何も思い出せてはいなかったが、戦闘というものがごく身近にある環境に僕はいたらしい。
 剣を取り、たとえ目の前の敵が魔物ではなく、人の形をしていようとも、戸惑うことなく自分のすべきことを理解し、行動に移すことが出来た。
 周囲の仲間達の動きを追いながら、どう動けば効率よく敵を殲滅出来るのかを冷静に計算する。

 それが、僕にとっての、当たり前の世界だったらしい。

 ふと、背後に気配を感じた。
「……ッ!」
 ただひとつ、掴めないものがあるとしたら、このイミテーションという人形の独特の気配だろう。
 意志をもたないが故に、時にひどくその存在が気付きにくい。
 ちょうど、今のように。
 ここまでの接近を許すとは。

「セシル!」

 僕から数歩ほど離れた場所にはヴァンがいる。
 避ける訳にはいかなかった。
 僕が敵を避ければ、その攻撃は、少年に向く。

「くッ……!」

 その場を動かず、身体を敵の方へと反転させる。
 もう、目の前にイミテーションがいる。
 
 瞬間、身体の奥から、ぶわりと熱が沸き起こる。
 両手を通して、武器にその熱が伝わる。
 力を纏った武器を、地に深く突き立てた。

「……波動を……!」

 解放された力が、イミテーションを捕え覆い尽くす。
 放った力の熱の中で、敵の姿は、見る間に消えていった。

「大丈夫かい?」
 
 ヴァンを振り返ると、少年に怪我は無いようだった。
「あ、あぁ……オレは大丈夫」
 驚いたような表情のまま、若干言葉に詰まりながらヴァンが答える。

「どうした!?」
「今のは一体何だ?」

 他のイミテーションも片づいたのだろう。
 やや離れた場所で戦っていた三人も駆け寄ってきた。
 
「……なっ……何、なんだ」
「……どういう、ことだ?」

 ライトニングと、滅多なことでは感情を表に出さない光の戦士までもが驚いた表情でこちらを見ている。

「セシル……お前、何があった?」
「……え?」

 久々に聞いた気がするカインの声。
 彼の表情だけは兜に隠され見えなかったが、その声に緊張が感じられるのは、気のせいではないはずだ。
 何をしたと問われ、ただ、武器を握っているだけのはずの、己の両手を見つめた。
 
「……っ!」

 なんだ、これは。
 
「ぁ……、」
 
 視界に映るのは、真っ黒な、漆黒の闇色をした両の手。
 震えるその漆黒の手で、己の兜に手をかける。

 そう、いつの間に、こんなものを被っていた?
 
「……ど……し、て」

 両の手に填った暗黒の籠手と同じく、闇より濃い漆黒の色の兜。
 まるで悪魔を模ったかのような、邪悪な意匠。
 
「ちが……う、ぼくは……」

「セシル」

 頽れた僕を、彼が見下ろしていた。

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