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祝・DDFF 発売2周年

 僕は、一体、何者なのだろう。
 思い出せたのは、自分の名前と彼の名前だけ。
 いや、自分の名に関しては、思い出したというより、彼にそう呼ばれ、確かにそうだと思っただけに過ぎない。
 ということは、思い出したのは、彼の名たったひとつだけ。
 
 名だけは思い出せた彼が、僕にとってどんな人だったのか。

 それすら、思い出せずにいる。

「デカい溜め息だなァ」
「え?」

 いつから居たのだろうか、すぐ隣にジェクトと、その背後にはユウナがいた。
 
「溜め息なんて、吐いてましたか?」
「おぉ。なぁ、ユウナちゃん?」

 苦笑しながらやんわりと反論しても、年嵩の歴戦の男には、あっさりと肯定されてしまった。
 そうですね、と少し困ったような顔で少女も頷く。
 二人に曖昧に笑い返すと、先ほどからずっと見つめていた場所に、また視線を戻す。
 約半数だろうか、仲間達がそこそこの人数集まっていて、手合わせをしているところだった。
 
「珍しいヤツが参加してんな」
 僕が、誰を見ていたかなど、とうにお見通しだったのだろう。
 仲間達の姿の中に、カインの姿もあった。
 比較的、周囲と距離を取ることの多い彼がこういう場に居るのは珍しい。

「……何も」
 カインの姿を見つめていると、ふいに言葉が零れた。
「結局、何も思い出せないんです」
 この二人ならば、分かってくれるだろうか?
 ほんの少し、そう期待していた。
 この異世界には、様々な世界から戦士が喚び集められている。
 しかし、ごく希に、同じ世界から喚ばれた戦士達が現れることがあるのだという。ジェクトとユウナのように。
 そして、僕とカインのように。
 
「カインも何も言ってはくれないし」
 少し、拗ねたような口調になってしまった。
「あいつに、聞いてみたのか?」
「いえ」
 そう出来たら良かったのだけれど。

「僕は……たぶん、避けられてる」

「そんなことは」
 ないです、と言おうしてくれたのであろうユウナに、いいんだ、と小さく首を振った。

「……敵同士が、ここでは仲間になる、なんてこともあるんだろうか……」

 ずっと考えていた小さな不安。

 もし、僕と彼とは、敵対する間柄だったならば。
 そうであれば、彼が僕に近付かない理由としても納得が出来る。
 けれど、そんなことはないはずだ、と同時に心の中の自分も叫んでいた。

 ざわざわと、たくさんの想いと、今はまだ見えない記憶が入り交じる。
 ゆらゆらと、僕自身の存在が曖昧に揺れ続けている。

 彼の言葉ひとつで、きっとこの揺らぎは止まるはずなのに。

「聞いてみりゃいいだろ」
 あっさりと、ジェクトがそう言った。
「ですけど」
「避けられてるんなら、強引に追っかけて、とっつかまえて聞いてみりゃいい」

 そんな簡単に、解決できるのだろうか。

「あの竜騎士さんは、素直じゃねぇからな」
「え?」
 僕の顔を覗き込み、ジェクトがにやりと笑う。
「もしかして、何か知ってるんですか?」
「いやー、どうだろうなぁ」
 
 そう意味ありげに笑うと、ジェクトは仲間達の方へと歩き出す。
 オレ様も混ぜろや!と声を上げ、輪の中に入っていく後ろ姿を、呆然と見送った。
 
「……私は、何も聞いてません」
「ユウナ……」
「だけど、ジェクトさんがああ言うなら、きっと大丈夫ですよ」

 そう言って彼女が微笑む。

 元の世界の絆を取り戻しているユウナとジェクト。。
 そして、この世界で出会ってまだそれほど長い時間が過ぎているわけではないはずなのに、解り合えているらしいカインとジェクト。
 
 何もかもが羨ましい。

 羨ましいと思う自分が、悲しかった。

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