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the dream on the New Year

 朝食を終え、歴史の教師が来る時間だからとセオドアは食堂から出て行った。
 夕方には剣の稽古をしようと約束をして、見送る。
 
 息子の姿が消えた扉をセシルが見つめたままでいると、ローザがあのね、と声を掛けてきた。 

「私も夢を見たの」

 なぜか彼女の顔を見ることが出来ず、セシルは俯き、微かに紅茶の残るカップを手に取る。カップの底に残る薔薇の花が、くるくると踊っている。
「……どんな?」

「長い、とっても長い廊下を歩いているの。どこかはわからないのだけれど、でもずっと、私の手を誰かが引いてくれていて」
「うん」
「両手を引かれているの。右手を引いていたのは、きっとあなただわ」

 そこまで聞けば、あとはもう聞かずともわかった。

「左手は、」
 セシルは顔を上げ、彼女の言葉を遮るように口を開いた。

「ローザ、」
「なあに?」
「夢に、カインが」

 その先の言葉を続けることは出来なかった。
 彼の夢を見た。
 思い出の、過去の夢ではなくて、これはきっと未来の夢だ。
 予知夢だとは言わない。そんな力はセシルには無い。
 けれど、これを、今年初めて見たこの夢を、近い将来叶う夢だと思ってはいけないだろうか。

「私ね、夢には意味があると思っているの」
 こみ上げる想いに、声が出せないセシルはただ彼女の言葉を静かに受け止める。

「夢に見るほど強い想いや願いは、きっと必ず形になるわ」

 涙を堪えているのだろう。セシル同様、やはり目元を少し染めた彼女の優しい笑顔。
 セシルはただ声もなく、ひとつ大きく頷いた。

 夢の続きが現実になるのは、もう間もなくのことだった。

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