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ファーストキス

 翌朝。
 
「……あたま……いたい……」

 うぅ、と枕に顔を埋めたままセシルが唸る。
 
「あれだけ飲んだんだ、当たり前だろう」
「うー……きもちわるい、よぅ……」

 大丈夫かと聞くだけ無駄なので、ただ黙ってカインはセシルの背を撫でてやった。

 昨晩、あのまま眠ってしまったセシルを、カインは自分の寝室に運んだ。
 この屋敷にはセシルの部屋もあるので、そちらに連れて行くのが道理ではあるのだが、あれだけ酔っていたセシルを一人にするのは不安だったのだ。
 そんな建前と、あのままセシルを離し難かったという本音が入り交じるのが実際のところなのだが。
 
 なんにせよ、目覚めた直後から唸り続けているセシルは典型的な二日酔いである。
 
「水飲め」
「いま起きたら、はきそう……」
「だったら吐いたほうが楽かもしれないぞ」
「……むり……」

 動きたくないと言うセシルの背をまた撫でてやる。
 しばらくして、ゆっくりと抱き起こしてやると、無理、何も口にしたくないと駄々をこねるセシルをなだめ、何とか水を飲ませた。
 それで少しすっきりしたのだろう。
 先ほどまでよりはほんの少しだけしっかりとした口調で、セシルが言う。
 
「お酒はもうこりごりだ……」

 どうやら、他人にあの姿は見せずに済みそうだ。
 セシルの言葉にカインは安堵し、内心胸を撫で下ろしたが、同時に罪悪感に胸が痛むのもまた事実だ。
 
「……今日は面倒見てやるから、もうこれっきりにしろよ」
「うう……」

 抱き起こされたセシルは、カインに身体を預けたまま、胸に青白い顔を埋める。
 背を撫でてやると、再びうめき声が胸元から聞こえてきた。

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