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Glorious Days
2015 新年
吐く息さえ凍り付くような冷たい空気。
頭上に広がる空はまだ薄暗く、周囲は闇に閉ざされたままだ。
痛いくらいに静かな夜の気配の中、自分の歩く足音だけが耳に届く。
酔狂なことをしているな、と自嘲混じりに嘆息する。
「今更……か」
こんな山の中で長年暮らし続けることのほうが余程奇異に違いない。
そう気付くと、当てもなく山頂を目指し寒空の下歩き続けている今のこの行動が、ふと意味のあることのようにも思えてきた。
この試練の山から最寄りの村を訪ねたのは三日前のことだ。
徒歩で半日ほどのその村は、生活に必要な物資を入手するため、定期的に足を運ぶ場所だった。
すっかり馴染みになってしまった露店では、いつものように恰幅の良い中年の女性が店番をしていて、代金と引き替えに品物の入った紙袋を手渡しながら、
「もう今年も終わるねぇ」
と声を掛けてきた。
その言葉にひどく面食らった。
そこで初めて、年の瀬だということに気が付いたのだった。
山での修行を始めて以来、日々の移ろいを、あまり気に留めないようにしてきた。
今日が何月の何日なのか、この生活を始めてどれくらいの月日が流れたのか、いつになったら山を下りるのか。
そんなことは敢えて意識の外に置くようにしていた。
焦りたくなかったのか、縛られたくなかったのか。それとも、過ぎていく時間をただ直視出来なかっただけなのか。
明確な答えはカイン自身にもわからない。
ただ、そう思えるようになったこと自体が、もしかしたら何かの変化なのだろうか。
年末なのかと気付いた日以来、本当に久しぶりに、時の流れを意識の内に置いてみた。
そして年の最後の日。
常ならばとうに寝てしまう真夜中、粗末な小屋の窓から、空を見上げてみた。
こんなことをしたのは、ここに来てから初めてだった。
ただ毎日、規則正しく生活を送ってきた。
そういった日常のすべてのことが修行だと、そう思って来たのだ。
日も暮れて半分よりやや大きい月が傾いていく。
真夜中を過ぎた。
一年が終わり、そして新しい年がやってくる。
その瞬間、ふいに脳裏を過ぎったのは、親友の笑顔だった。
「ねぇ、朝日、見に行こうよ」
記憶の中のセシルは、そう言った。