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2015 新年

「今から東の岬まで行ったら間に合うかな?」

 そう言いながらセシルが小さく首を傾げる。
「どうだろうな」
と素っ気なく答えながらも、カインはコートに袖を通す。
 ついさっきまで、城下の街中で行われていた年越しの祭りに出掛けていたのだ。
 脱いだばかりのコートはまだほんの微かに体温を残していて温かかった。

 同じようにコートを羽織り、どこか不器用そうにボタンを留めているセシルの首元に、マフラーを巻いてやる。

「なんですぐ子供扱いするかなぁ……」
 拗ねたような声でセシルがぼやく。
 だが、それには取り合わず、
「風邪引くなよ」
とカインは言い、手袋を押し付ける。

 半ば強引に渡された手袋を受け取りながら、それでもセシルは、
「……ありがと」
 小さく答えて、両手に手袋を填めた。

 あの時は、結局、日の出には間に合わなかったのだ。
 目指したのは、城の南東にある岬の先端だった。
 バロンの一番東の端で、水平線の下から昇る朝日を見たかったのだけれど、叶わなかった。
 カインも、そしておそらくはセシルも、それはある程度予想はしていた。
 間に合うか間に合わないか。
 重要だったのはそんなことではなくて、ただ真夜中に二人で城門から抜け出して誰もいない場所へ行く、そういうちょっとした冒険がしたかっただけなのだ。

 もうどれくらい前のことになるのだろう。
 まだ幼さの残るセシルの言葉を思い出すと、それに惹かれるかのように、心が動いた。

 ――朝日を見に行こう。

 本当に自然に、そう思えた。

 こんな山の中だ。
 当然、目指す場所は、山頂だった。

 故郷のバロンよりもずっと寒く冷たく、そして当然のことながら明りのひとつもない暗い道を一人歩く。
 ただ黙々と歩きながら、二十年近く前の夜のことを思い出していく。
 兵学校の卒業試験を間近に控えていたのだ。
 年が明けて間もなく試験があって、春には軍に配属される。そんな時期だった。
 あの頃描いていた未来はまだ何の曇りもなく、輝かしいばかりだった。
 希望ばかりを詰め込んだ未来を語りながら、セシルと二人、夜道をチョコボに乗って並んで駆けた。

 あの時の自分が、今こんな場所にいる未来を想像すらしていなかったことは間違いない。
 セシルもきっと同じだろう。
 今は故郷のバロンで、国王の座に就いているセシル。
 そんな未来を、あの時想像していたはずがない。

 ましてやこんなに長い年月を、離れて過ごすことになるなんて。

 隣にいることが当たり前だったあの頃。
 カインもセシルも、こんな未来を想像することすら出来なかったのだ。

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