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When I Wish Upon a Firework

「本当に二人だけで大丈夫?」

 この台詞を聞くのは今日何度目だろうか。
 心配そうな表情の母に、カインは半ば呆れていた。
 
「大丈夫だって。祭りには毎年行ってるんだし、だいたい毎日通ってる場所だよ。夜だってだけじゃないか」
「それはそうだけれど」

 小さい子供じゃないんだから、と思うが、それを言えば、まだ子供でしょうと返されるのに決まっているので、口にしない。
 もう十歳になるのだ。
 もっとも、それが大人からすれば、まだ十分に子供扱いされる年齢であることもカインは承知している。
 承知しているとは言え、納得出来るかと言えばそれはまた別の問題になるのだが。

 一年の最後の日。
 街から城まで王都の中心で、真夜中に行われる年越しの祭りに向かっているのだ。
 例年ならば、両親に連れられて見に行っていた。数年前からは、親友のセシルも一緒だった。
 今年、カインは十歳になった。まだ遠出は許されていないが、城壁の外へ遊びに行くことも認められるようになったのだ。
 だから、そろそろ祭りにも、子供だけで出かけたいと思っていた。
 幸い、とも言えるだろうか。偶然にも今年は、父が仕事で多忙で、年末から年明けまでしばらく王都を離れることになった。
 それを機に、カインは父から、セシルと二人で祭りに出かける許可を取り付けたのである。

 馬車の中、向かいに座る母は、カインとその隣にいるセシルを交互に見つめて不安そうだ。
 カインの自宅、ハイウインド家の屋敷は街外れにある。祭りの行われている街の中心はともかく、そこまで子供だけで夜道を歩かせることに抵抗があったのだろう、母から街までは送って行くからと馬車に乗せられたのである。
 本当に、心配性にも程がある。
 内心ため息をつくカインの隣で、セシルは先程からマフラーと格闘していた。
 上手く巻けないらしい。首を傾げながら、マフラーの端を引っ張ったりしているのだが、どう見ても絡まっている。本当に不器用だなとカインは再度心の中でため息をついた。

「とにかく、大丈夫だよ。父さんだって良いって言ったんだから」
「気を付けるのよ?」
「わかってるって。……セシル、やってやるから、いったん手を離せ」

 母に大きく頷いてみせると、カインはついに隣に向き直った。
 絡まりすぎて訳が分からなくなったのだろう、セシルが困惑しきった顔でカインを見つめた。

「なんでかなぁ。すぐほどけちゃうんだよ」
 それで巻き直しているうちに、今度は絡まって解けなくなったようだ。
 言われた通りにマフラーから手を離しながら、セシルが首を傾げる。

「……なんで、こんなに、ややこしいことになってるんだよ……」

 絡まったマフラーを、一旦外そうとカインは絡まった結び目を解いていく。
 下手をすれば首が絞まったんじゃないかと思うくらいに、こんがらがっていた。
 
「だって、すぐほどけちゃうから、落ちないようにしようと思ったんだもん」

 ぼやいたカインに、セシルが頬を膨らませて拗ねる。
 
「こないだやり方教えてやっただろ」
「教わった通りにやったよ」

 教えたのも一度や二度ではないはずなのだが、一方のセシルは習った通りにやったと主張する。
 大抵の事は一度教えれば覚えるくらいにはセシルも賢い子供なので、要は記憶力や理解力の問題ではなく、ただ不器用なだけなのだ。

「ほら、これでいいか」
「うん。ありがとう!」

 絡まったマフラーを一度外すと、巻き直して解けにくいように結んでやる。
 
「お揃いだね」

 嬉しそうにセシルが笑う。
 あまりに無邪気な笑顔に、なんだかカインのほうが気恥ずかしくなってくる。
 ふいと視線を逸らし、窓の外を見る。
 
「もうこのへんでいいよ、母さん」

 そう言うと、御者にも馬車を止めるように告げた。

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