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When I Wish Upon a Firework

「……あぶないなぁ」
 
 前方から歩いてきた中年の男とぶつかりそうになり、それを寸前で躱したカインは小さく呟く。
 大人の中には酒に酔っている人も多いので、こちらが注意していてもぶつかりそうになることはままあるのだ。
 後ろを歩いているセシルは大丈夫だろうかと思い、振り向いて驚いた。
 
「セシル!?」

 いるはずの姿がない。
 カインは驚いて、立ち止まる。
 人混みのど真ん中で立ち止まったカインに、周囲の人々が怪訝そうな視線を投げる。
 だが、そんなことには気付かず、周囲をきょろきょろと見回すと、人の流れの中で立ち止まっているカインにたくさんの人がぶつかっていく。
 
「セシル、どこだ?」

 どん、どん、とすれ違う人にぶつかりながら、カインは大声でセシルを呼ぶが、人混みの喧噪の中ではあっという間にその声も掻き消えてしまう。
 カインを横目で見ながら通り過ぎて行った女性が、迷子かしら、と呟くのが聞こえた。
 こんな人混みではぐれてしまえば、探すのがどれだけ困難なのか、考えるまでもない。
 
「どうしよう」

 今頃セシルも必死でカインを捜しているはずだ。
 カインのほうが前を歩いていたのだから、セシルがここよりも先に行っていることはない。
 目的地は、城の城門前の広場だ。ずっと大通りを歩くだけだから、横道に逸れているはずもない。
 このまま戻れば途中でセシルと会えるはずだ。
 そう考えたカインは、皆が広場へと向かって歩く人波に逆らうように、逆の方向へと歩き出した。

「セシル! どこにいる!」

 人の流れと逆に歩くカインは、たくさんの人とぶつかっている。
 肩や腕をあちらこちらにぶつけたが、痛みはちっとも気にならなかった。
 それより、どこかで一人でいるはずのセシルが心配でならない。
 カインでさえ、これだけの人混みに埋もれてしまうのだ。周囲は自分よりもずっと背の高い大人ばかりで、ぎゅうぎゅうの人混みにどこか息苦しささえ覚える。
 もっと小さいセシルが潰されていないか、転んで怪我などしていないか、不安で仕方がなかった。
 どうして、手を繋いでやらなかったのだろう。
 幼い頃は、どこへ行くにもいつも手を繋いでいたのに。
 もう小さい子供じゃないんだから、と大人ぶった言い訳をしていたけれど、本当は恥ずかしかっただけだ。
 でもこんな人混みに二人きりで、セシルはきっと心細かったに違いない。
 挙げ句、はぐれて一人にしてしまった。
 どこかで泣いていたりしないだろうか。 

 どぉ……ん!と背後で大きな音が響いた。
 その瞬間、わぁっと周囲の人々から歓声が上がる。
 
「花火、始まっちゃったのか……」

 セシルと会えないまま、メインイベントである花火が始まったらしい。
 ということは、日付が変わり、新年を迎えたということだ。
 セシルもどこかでこの花火を見ているはずだ。もうすぐそばにいると思いたい。
 
 ふいに何故か、初めて一緒にこの花火を見た時の事を思い出した。
 
「……早く探さないと」
 
 記憶の中のセシルの顔と声。
 それを思い出して、カインは、改めてそう呟く。
 
 これ以上、一人にしてはおけない。

 まだ六歳だったセシルは、言っていたのだ。
 一緒に祭りに行って、花火を見ようと約束した時のことだ。

「……はなび、きらい」
「なんで?」
「おおきな音するでしょ。ひとりでいると、こわいもん」

 だからきらい、ともう一度繰り返したセシルは、とても寂しそうだった。

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