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When I Wish Upon a Firework

「セシル!」

 やっと見つけた。
 大きな木の下に蹲る小さな少年の姿。
 昔の事を思い出すと、セシルは人混みの中にはいない気がした。そう思って周囲を見回すと、この木が目に入ったのだ。
 近付いてみると、探していた姿があった。
 思わず名前を叫んだ。
 だが、蹲ったままの少年は微動だにしない。
 ここからでは聞こえないのだろうと、周囲の人を掻き分けてカインは傍へと駆け寄る。
 夜でも目立つ銀色の髪、抱きしめるようにしている紺色のマフラーは、カインが巻いているものとお揃いだ。セシルに間違いない。
 ふと、やはりお揃いの手袋をした両手で、耳を塞いでいるのに気付いた。
 今よりずっと幼いころの事を思い出して、なんだか胸が苦しくなるようだった。
 
 蹲り、顔を伏せたままのセシルの前に膝をつく。
 
「セシル」

 もう一度、名前を呼んだ。
 ぴくり、とセシルの肩が震える。
 顔を覗き込もうとすると、ぱっと表を上げたセシルが飛びついてきた。
 
「……っ!」

 勢いよく抱きついてきたセシルを受け止め、後ろに倒れないように懸命に踏みとどまる。
 
「カイン……っ」

 必死にしがみついてくるセシルを抱きしめながら、無事でよかったとほっと息を吐いた。

「ごめんな」
「ごめんね」
 
 二人同時に口を開くと、声になったのも同じ言葉だった。
 
「マフラー落としちゃって。拾ってたらはぐれちゃった……」
「ちゃんと手を繋がなかった俺が悪かったんだ」

 カインがそう言うと、まだ抱きついたままのセシルが、胸のあたりで首を振る。そんなことはない、と言いたいのだろう。
 けれど、カインは父とも約束をしていたのだ。
 ちゃんとセシルの面倒も見るから、二人で出掛けたいと言ったのに。
 腕の中のセシルはまだ震えている。
 怖い思いをさせてしまった。
 最近ではたまに生意気な事を言ったりもするが、本当はセシルがとても寂しがり屋なのはよく知っている。
 
「セシル」

 抱きしめたまま、背中を何度も撫でて、時々名前を呼ぶ。
 セシルも腕の中で、時折確かめるようにカインの名を呼んでいた。
 
 しばらくそうしていると、ずっと強ばったままだったセシルの身体から、ふっと力が抜けた。
 抱きしめていた腕の力を抜くと、セシルがカインを見上げて、
「花火、始まっちゃったね」
と小さく笑う。
 そしてそっと身体を離した。

「広場まで行くか? もうすぐそこだけど」
「……うん」

 このままここで見ていても構わないのだけれど、本来の目的地は目の前だ。
 カインの問いに、セシルが頷く。
 それを見て、カインはセシルの手から、解けたままのマフラーを取り上げた。
 今度こそ落とさないように、さっきよりもしっかりと結んでやる。
 
「ありがと」
「ほら、行くぞ」

 今度ははぐれたりしないように、カインはセシルに右手を差し出した。
 
「あ……」
「もう、はぐれるなよ」

 差し出された手をセシルがぎゅうと握る。
 それを強く握り替えしながら、冗談混じりにカインは笑った。
 
「大丈夫だよ」

 セシルもわざと頬を膨らませようとして、けれどもすぐに笑い出してしまった。
 
「ちゃんと、手繋いでるもん」

 そうセシルが呟くと、カインは昔そうしたように、セシルの手を引いて歩き始めた。

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