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2016 新年

「なんだ、もう空か……」
 グラスの上で瓶をひっくり返すが、何も落ちてこない。
 カインが持ち込んだ酒は5、6本はあったはずなのだが、気が付けば空のボトルが周囲に散らかっている。
 年が明けて数時間、テーブルの上の料理も大半の皿が空になっていた。

「適当に好きなの開けていいよ」
 だいぶアルコールが回ってきたのだろう、どこかのんびりとした口調でセシルが言う。
 この部屋は、今では、セシルの息抜き用の部屋なので、ある程度の酒が置いてあるのだ。本城にある、「国王の私室」にはそんなものは置いていない。
 昔から出入りしている、勝手知ったる部屋の棚の前で、カインは並べられたボトルを吟味する。

「私、甘いのが良いわ」
「僕も」
「……それこそ好きなのを選べばいいだろう。俺は知らん」
 ボトルを一本掴んで、カインはテーブルに戻る。
 そのまま手酌でグラスに注いだのは琥珀色の蒸留酒だ。

「林檎酒があったと思うんだけどな……」
 甘い酒には興味のないカインと入れ違いに棚の前に立ったセシルが独りごちる。
「アイスワインもあるなぁ……あとラムか。ローザ、どれが良い?」
「そうねぇ……ラムかしら」
 そこで一番強い酒を選ぶローザも、アルコールには滅法強い。
 セシルが持ってきたラム酒の香りを嗅ぐと、
「あら、随分良いものね」
と嬉しそうに笑う。

 そうして三人でテーブルを囲んでいると、こんこん、とドアが叩かれた。
 咄嗟に顔を見合わせる。
 時刻はとうに夜中の四時を過ぎ、五時に近い。夜というよりは既に早朝だ。

「なんだろう……?」

 こんな時間に、ここに人が来るということは、相当に緊急を要する事態のはずだ。
 知らず、三人とも表情が険しくなる。
 
「あの、セオドアです。入っても……?」

 だが、扉の向こうから聞こえたのは、予想外の声だった。
 
「ああ、なんだ。入っておいで」
 セシルが声をかけている扉を見ながら、ローザは首を傾げる。
「どうしたのかしら、こんな時間に」
 失礼します、と礼儀正しく言いながら、セオドアが室内に入ってきた。

 普段からは想像出来ないほどに散らかった室内と、夜通し飲んでいた大人たちの様子に、さすがにセオドアも一瞬躊躇ったようだ。
 だがすぐに、三人の前に向かって、
「今年もよろしくおねがいします」
と言い、ぺこりと頭を下げた。
 それを見て、何か事件でもあったのかと身構えていた大人三人は、毒気を抜かれ、脱力する。
 なんとか気を取り直して三人それぞれに新年の挨拶を返すと、セシルが代表して
「どしたんだ? 何かあった?」
と切り出した。

「シドから、三人を呼んで来いって言われて」
「……シドから?」
 またしても予想外の名前が出て、三人は揃って怪訝な顔になる。
「はい。良いもの見せてやるから早く来い!、だそうです」
「良いものって何なんだ?」
「というより、どこに行けばいいんだ?」
 セシルとカインに次々に問われ、セオドアは少し悪戯っ子のような表情になる。
「飛空挺のドックです。とにかく行きましょう!」

 呆気にとられたままでいると、ほらほら早く、とセオドアに追い立てられ、部屋を後にした。  

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