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突然ですが

バレンタインがもうすぐですね。

なので突然ですが小話を上げてみます。
もう2、3本くらいネタがあるので、明日明後日で小出しにしようかと。
もっともあの世界にバレンタインなんて行事があるはずがないので、バレンタインにちなんだテーマ色々でお送りします。

今日はチョコレートの話。

ちなみにがっつり恋愛話ではありません(笑)
なんとなくカイセシっぽい雰囲気を出しつつはあるつもりですが、たぶんセシルとカインが直接あれこれやりとりする話は1本もないと思いますw



「はんぶんこ、ね」
 隣に座った少女はそう言うと、箱の中に綺麗に並べられていたチョコレートを、ひとつ、ふたつと数え始めた。
 そんな無邪気なリディアの様子を見つめながらセシルは小さく笑う。

 ホブス山を下りて最初の村に到着したのは夕方には少し早い時間だった。
 ファブールの城下まではもうあと数日だ。
 村にある唯一の雑貨店に立ち寄ると、チョコレートが売られているのを見つけた。
 こんな小さな村では珍しいものだろう。
 ミストからずっと一緒に旅をしている少女が喜ぶだろうか、と買い求めて宿に戻った。
 リディアに箱を手渡すと、一瞬きょとんとした顔をして、
「ほんとうにいいの?」
と尋ねられた。
 彼女にとってもチョコレートは珍しいものだったようだ。
「いいよ。たくさん頑張ったからね」
 ご褒美だよ、と言うと、ありがとうとリディアが笑った。
 
「むっつあるから、みっつずつ。ね?」
「全部リディアが食べていいんだよ」
 そのつもりで買ってきたのだけれど、彼女はセシルと分けるつもりらしい。
「セシルは、チョコレートきらい?」
「いや。甘いものは好きだけれど」
 苦手だから全部食べていいよ、とそう答えれば良かったのかもしれない。
 けれど、深い森の色をした瞳にまっすぐに見つめられると、嘘は言えなかった。
「じゃあ、はんぶんこだよ」
 そう言って、リディアはセシルの掌にチョコレートの粒を三つ載せた。
「ありがとう」
 チョコレートをというより、少女の優しさを受け取ったような気がする。
 セシルが礼を言うと、隣に座るリディアはにっこりと笑う。
 
「いただきます」
 食事の時のようにきちんと挨拶をして、けれどもう待ちきれなかったのだろう。
 リディアはきらきらとした目でずっと見つめていたチョコレートを、すぐにぱくりと一粒口に入れた。
「あまーい!」
 両手を頬に当てて、リディアが声を上げる。
 美味しいものを食べたときに、ほっぺたが落ちそうと言うけれど、まるで頬が落ちないようにと抑えているようで、可愛らしい仕草にセシルは思わず小さく笑う。
 すぐに二粒目を頬張った彼女を見つめながら、セシルも自らの掌に載せられたうちの一つを口に運んだ。
 砂糖の甘さがミルクの優しい味に溶けて、そこにほんの少しカカオのほろ苦い味が残る。
 甘い物を口にすると、ほっとするのは何故だろう。
 少女のために買ってきたつもりだったのだけれど、口内に広がる安堵する味に癒やされているのはセシルのほうだ。
 
 そんなことを考えていると、隣から熱心な視線が向けられていることに気が付いた。
「リディア?」
 どうかした?と尋ねようとして、空っぽになった箱が目に入る。
 ああ、そういうことか、と腑に落ちる。


「二人で仲良く分けてね」
 セシルがまだ幼い頃、親友の母がそう言ってよくお菓子をくれた。
 チョコレートだったりクッキーだったり、時には飴玉だったり。
 貰ったお菓子を、カインと二人で半分ずつ分け合う。
 昔から甘いものは大好物で、いつも先に食べ終えてしまうのはセシルの方だった。
 ちゃんと平等に分けたのだから、同じ数ずつのはずだ。それは分かっている。
 けれども、まだお菓子の残っている親友が羨ましくて、じっと見つめてしまう。
 そうすると結局最後には、カインは残っていた自分のぶんのお菓子をセシルに分けてくれるのだ。
 
 最初はそんなやりとりをよくしていて、それからもう少し大きくなると、半分するのではなく、カインはセシルに最初から多くをくれるようになった。
 十をいくつか超えたくらいになると、甘いものはいらないから全部お前にやる、と言うようになって、そして最終的にはそんなやりとりすらしなくなったのだ。
 例えばコース料理の最後に出てくるデザートは、当たり前のようにセシルが二人分食べてしまう。
 カインとの間では、それがセシルの「当たり前」だった。
 
 ふと今更に気が付いた。
「甘いものは嫌いだ」
と、そうはっきりと彼から聞いたことはなかったということに。

 ――すべては彼の優しさだったということに。
 

 
 
「はんぶんこ、しようか」
「え?」
 リディアがくれた三つのチョコレート。
 一つは食べてしまって、あと二つまだ残っている。
「はい」
 二粒のチョコレートの片方を、セシルはリディアの口に入れてやる。
 そして残った最後の一粒を自分の口に入れた。

 こんなチョコレートの小さな数粒にもたくさんの思い出があるのだ。
 ミストで別れたきり、安否すらわからない親友。
 甘いはずのチョコレートが、先ほどよりもずっと苦い。
 
「おいしいね」
 セシルを見上げて笑う少女に、笑顔を作り、そうだねと答える。

「また、はんぶんこしようね」
「……ああ」
 リディアが耳元で囁くように告げた言葉に頷きながら、今度ははじめから彼女のほうが多くなるように分けないとな、と思った。




 いつも貰っていた「当たり前」の優しさが、今はあまりにも遠くて。
 思い出の中にしかないそれはあまりにも儚い。
 チョコレートのように、甘くて優しい思い出を、壊れないように、壊さないように。
 どこまで旅を続ければいいのだろうか。


ということで、セシルと子リディアでした。

だいたい下に兄弟がいる人は、カインと似たような目にあってると思います(笑)。
ウチだけじゃないと思うんだけどな……。
さっさと自分の分を食べちゃったのが悪いのに、なんであんな物欲しそうに見てくるんだ、と子どもの頃はよく思ってました。
カインみたいに人間が出来てないので、分けてやることは絶対にありませんでしたがw

たまに甘いものが出てくる話書いてますが、別にカインは甘いものが嫌いなわけじゃないんです。
なんだかんだと割と相手に尽くすタイプだと思うんだよね、カインは。


ではまた明日。
明日はセシルとローザかなぁ……。

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