母に買ってきてくれと頼まれた本を渡したら、
「そういえばあんた本ばっかり読んでるけど、自分で書こうと思うことないの?」
と突然聞かれました。
びびびびび吃驚するじゃないか……!
「え、なんで?そもそも書いてどうするのよ」
と平静を装って答えましたがw
すいません小説書いて装丁して本作るのが趣味です……!とは言えるはずがない。
書こうと思うどころか実際に書いてます、10年近く前からwww
ちなみに、書いて芥川賞に応募するとか、と言うのが母の答えでしたが。芥川賞は公募じゃないし、そもそも純文学は書く以前ほとんど読まないよ私www
ということで、無事乗り切ったのでした。
小説は趣味でいいよー。
オリジナル書いてた時期もあったし、今後もまた書きたいとは思ってるけど、作家になりたいとはまったく思わないです。
ネットのない時代だったら作家になりたいと思ったかもしれないですけど、今はプロにならなくてもいくらでも作品発表する場があるもんなぁ。
ここで書いてるので満足してます。
ということで、そんな趣味の作品を晒します。
「お忙しいのにわざわざご足労頂いて、ありがとうございました」
ポロムが隣を歩くセシルを見上げて、礼を言う。
「いや、こちらから持ちかけた話だからね。長老に直接お会いしてお話ししたいと思っていたし」
そう返事をしたセシルは、一段声を低くし、幼い頃からよく知る白魔導士の少女に囁く。
「たまには外遊に出られるほうが私も嬉しいんだ。良い気分転換になる」
「セシルさんったら」
ミシディアを代表する魔導士として、外交用の畏まった口調を崩さなかったポロムが、兄のように慕うセシルの冗談に、ようやく彼女らしい笑顔を見せる。
そんな二人の数歩後ろをカインは歩いていた。
セシルが言ったように、バロン国王である彼自身が外遊に出ることは、ここ最近では珍しいことだった。
本来、城や国内で大人しくしていられるような性格ではなく、手が届く限りは何でも自分で動きたい性分のセシルなのだが、さすがに現在の情勢ではなかなか国外には出られなかったのだ。
民は皆、セシルはこの星を襲った脅威に捕えられ、カインを筆頭にした仲間たちの活躍もあり幸いにも無事に戻ってくることが出来たのだと信じている。その国王がまた国を不在にし、外遊に飛び回るのでは、国民が不安に思うことは容易に想像が出来る。
カインがバロンに戻ってきたこともあり、各国との連絡や調整は主にセオドアとカインに委ねることが多くなっていた。
そんな中、久々にセシル自らが国を出て、ミシディアを訪ねたのだ。
護衛の対象がセオドアではなくセシルだというのは、カインにとっては少し不思議でもあり、同時に新鮮でもあった。
「あの……!」
ふいに声をかけられ、近付いてきた見知らぬ人物の気配に、一瞬カインの身体に緊張が走る。
怪訝な顔で振り向くと、そこには十代の前半と思しき少女の姿があった。
足を止めたカインに気付き、セシルとポロムも立ち止まり背後を振り返る。
「なんだ?」
随分と身なりの良い少女だった。
蜂蜜色の髪を丁寧に結い上げ、落ち着いた臙脂色のビロードの外套を身に纏っている。
カインが訝しげに尋ねると、少女はカインをまっすぐに見上げてこう言った。
「私のこと、覚えてらっしゃいませんか?」
「なに……?」
「ずっと昔、あの館の前で」
ニァ、と子猫が鳴く声が、脳裏に蘇る。
「あの時の娘か」
「……はい!」
良かった、人違いかと思いました、と少女は安堵したように微笑む。
「あの時は、ありがとうございました」
「いや、俺は何も」
むしろ礼を言うのはカインのほうだろう。
優雅な仕草で頭を下げた少女の姿が、あの雨の日の幼い姿と重なる。
あの日別れた子猫はどうなったのだろうか。
そんなカインの心の内に気付いたのか、少女が笑みを浮かべ言った。
「セシル……あ、あの子の名前なんですけれど、元気にしています」
思いがけない少女の言葉に、カインは一瞬面食らう。
数歩離れた所に立つ親友と、その隣でポロムも驚いたような顔をしていた。
「そんな名をつけたのか」
驚愕が去ると、妙な可笑しさがこみ上げてきた。カインは小さく笑う。
「ごめんなさい、家に連れて帰った後に気付いたんです。名前を聞き忘れてしまったって」
「構わん、名前は決めていなかったからな」
一人と一匹だけの生活だった。
呼び名など必要がなかったのだ。
「あまり猫らしくない名前だって言われるんですけれど」
少女が苦笑する。
そんな彼女にカインは、いや、と小さく首を振る。
銀色の小さな子猫が首を傾げて甘えて鳴く姿を思い出す。
「……似合いの名を、貰ったんだな」
ぽつりと零れた言葉は、とても穏やかな声音だった。
時間のある時に屋敷に会いにきてください、と言い残し少女は去っていった。
どうやら、カインの顔は覚えていたようだが、その身元までは気付かなかったようだ。知ればきっと驚いたに違いない。
「……驚いたな。猫の名前、なのか?」
「らしいな」
奇しくも猫と同じ名だったセシルが、少女の背を見送るカインに苦笑しながら問いかける。
突然自分の名が、見知らぬ少女と親友の間で出れば驚くのも無理はない。
「あの子とお知り合いだったんですね」
ポロムの言葉に、ああ、とカインが頷く。
「以前、ほんの少しだが、会ったことがある。……彼女を知っているのか?」
あの子、という言い方が引っかかり、逆にカインはポロム尋ねる。
「ええ。何度かお屋敷にもお邪魔したことがあります」
そう答えたポロムが思い出したように、ああ、と声を上げる。
「銀色の、綺麗な猫ちゃんがいるんです。名前までは私も知らなかったんですけれど」
まさか、セシルという名だとは思わなかった。
ポロムとカインの視線が、セシルに集まる。
「そういえば、少しセシルさんに似ているかも」
「……そうだな」
くすくすと笑うポロムに、カインもフッと笑みを見せ同意する。
「甘ったれで、生意気で、我が儘なところがそっくりだったな」
セシルの顔をちらりと見やりながら、そう言ったカインに、なんだよそれ、とセシルが抗議の声を上げる。
「だいたい話がさっぱり見えないんだが」
「昔の話だ。お前には関係ない」
「いや、どう考えても関係あるだろう。だったら僕の名前がなんで出るんだ」
「偶然の一致だ、気にするな」
「いや、気になる。詳しく聞かせてくれ」
「……気が向いたらな」
二人の子供じみた言い争いに、ポロムが呆気にとられた後に、ふっと吹き出した。
「ポロム?」
セシルとカインが、口論を止め、笑い続ける彼女を見つめる。
「ローザさんが、言ってたんです。
普段は正反対なのに、たまに二人はとてもよく似てるって。
それを思い出したら、なんだかおかしくなってしまって」
ごめんなさい、と言いながらなおも彼女は笑い続ける。
ポロムにそう語ったときのローザの表情と口調は何となく二人には想像がついた。
きっと、どうしようないんだから、と呆れ半分だったに違いない。
今はバロンで二人の帰りを待つ彼女の姿をカインは思い起こす。
そう、気が向いたら、彼女には語っても良いかもしれない。
ほんの一時、共に過ごした子猫の話を。
ニァと鳴く、セシルという名の銀の猫の柔らかな温もりを、懐かしく思った。
Fin.
や、やっと最後まで載せられた……!
ちなみに最初に載せたのが8月の終わりでした。なぜ2ヶ月もかかったんだろう。
3回くらいで終わるつもりが、倍になってしまいました。
1万字超えてるみたいなので、分量的にも20ページのコピ本くらいの長さになりますね……やっぱり本に出来たな、この話w
でも、たまにはウェブで長めの話も良いかもしれないですね。
このオチは書く前から決めてありました。
書くかどうか迷って結局入れなかったのですが。
実は子猫を譲られた女の子の名前はローザと言います。彼女は同じ名前のバロン王妃に憧れていて、偶然拾った猫に、王妃にあやかりその夫の名前を付けました。
ということで、猫のセシルの名前の元ネタは、本当にセシルさん本人だった、なんてところまで考えてたんですが、カイン視点で最後まで書ききりたかったのでばっさりカット。
名前だけは出そうかとも思ったんですが、結局それもやめました。って、ここに書いちゃったけどな!
ということで、長々とおつきあいくださった方、ありがとうございました!
……さすがに足かけ2ヶ月かかっていると、どうも文章にばらつきがあるので軽く修正して、サイトとピクシブにまとめてアップしようと思います。
こことピクシブには載せたけど、サイトに載せてない話、というのがいくつかたまってるのでその辺もまとめて整理しようと思います。
ひとまず今日はここまで。
おやすみなさいー