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嘘ついた

昨日に引き続きバレンタイン的な小話。
いやあんまりバレンタイン関係ないかもしれない(笑)
書きたかった小ネタ書いてるだけな気がする。

今日のテーマは……手作りのプレゼント、かな?
二日目にして早くもテーマがあやふやであるw

時間軸もめちゃくちゃというか前後しまくって申し訳ない感じですが、今日の話はセシル15歳……というかカイン16歳とローザ14歳。

明日はセシロザとか、昨日嘘吐きました、スミマセン。
ということで今日はカイロザをお届けしますー。

カイセシは行間で萌えてください(笑)



「やっぱり外は寒いわね」
 外に出た途端、冷たい風が頬を撫でていった。
 彼女の言葉にそうだなと頷きながら、表通りを歩き出す。
「でも寒いほうが星が綺麗に見えるわ」
 そう言いながら彼女が空を指差す。
 今日のドレスやアクセサリーに合わせたのだろう、綺麗なゴールドに染められた指先。
 きらきらと光って星のひとつのようだ。

 共通の知人、というよりは、家同士の付き合いと言ったほうが正しいだろうか。
 パーティに招かれて、ローザと共に出席した帰りなのである。
 もっともとりあえず顔は出したという事実が重要なのであって、まだ十代半ばのカインとローザが長居をしたところで楽しい場でもない。挨拶をしなければならない最低限の人たちに顔を見せると、早々に辞去してしまった。
 招かれた屋敷を後にしたのは、夕方には遅く、夜には早い中途半端な時刻だった
 せっかくだから食事でもして行こうかということになったのだった。

 ローザに合わせて、カインは普段よりはゆっくりと歩いている。
 街中で彼女と二人きりというのは珍しい。
 いつも三人でいる訳ではないはずだ。
 しかし、実際にセシルがいないシチュエーションになってみれば、珍しいなと感じるのだから不思議なものである。
 そんなことをカインが考えていると、ローザが
「セシルは今日はどうしてるのかしら?」
と言った。
 どうやら同じ事を考えていたらしい。思わず笑いを噛み殺す。
「なあに?急に笑ったりして」
「いや、何でも無い。……セシルだったら、シドのところだろう、今日も」
 飛空艇の開発が大詰めだと聞いている。
 飛空艇にさえ乗れば誰でも空に行けるという時代が間もなくやってくるのだろう。
 空を自在に駆け、そこで戦う竜騎士として生きるカインには、それがいまいちピンと来ない。
 忙しい以上に楽しくて仕方が無いという顔で、セシルがいろいろと語るのを聞いてやるのが、最近のカインの日課である。
 もっとも春になれば学校も卒業だ。寮の同じ部屋で寝起きする生活ももうあと少しだ。
「授業の後にも顔を出しに行っているようだしな。毎日、機械油まみれになって帰って来るぞ」
「あらあら……セシルらしいわ」
 会話は自然と、ここにはいないセシルの話題になる。
 ふと、自分がいない時には、セシルとローザはどんな会話をしているのだろうかと、気になった。



 
 他愛のない話をしながら歩いていたが、ふいに隣を歩く彼女の姿に違和感を覚えた。
 いつも綺麗に背を伸ばして軽やかに歩くローザ。
 だが、今は足下が少しふらついている。
 大通りの、綺麗にレンガが敷かれた歩きやすい道のはずなのだが。
「きゃっ」
 小石でも踏んだのだろうか、不意によろけた彼女の腕を咄嗟に取った。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい、平気よ」
 謝る彼女の足下に視線を落として気が付いた。
 大人っぽいシンプルな形にシルバーやゴールドの派手なアクセントをおくファッションが流行るらしいと、どこかで聞いたことがある。
 今日の彼女もそんな流行を意識したのか、濃い落ち着いたトーンの赤いドレスに、金のアクセサリーを身に付けていた。
 靴は装飾品と同じくゴールドのハイヒールだ。
「足、痛むんだろう」
 服やドレスなど多数持っている彼女だが、流行を先取ったコーディネイトだという事を考慮すると、おろしたての新しい靴なのだろうと容易に推測出来た。
 食事をしに、少し遠回りをさせたことを後悔する。
 もっと早く気付けばよかった。
「え……?」
 何の説明もしていないのにと、少し驚いたような顔をして、そしてローザは小さく頷いた。
「新しい靴だとやっぱり駄目ね……でも大丈夫よ、もう少しで家だし」
 しかし大丈夫と言われたところで、はいそうですかとカインに言えるはずがない。
 ちょうど二人は今、広場にさしかかる場所にいる。
 人の往来は多いが、空いているベンチがあるのを視界の隅に捉えて、
「つかまってろ」
 そう素っ気なく言うと、カインはローザを抱き上げた。

「いつもより踵も高い靴のようだしな。歩き慣れないんだろう?」
 決してハイヒールを履かないというわけではないのだが、いつもの彼女はあまり踵の高い靴は履かない。
 理由はなんとなく想像が付いている。
 カインの指摘に苦笑しながら、ローザはすまなそうに答える。
「久しぶりにこんなに高いヒールを履いたの。迷惑を掛けるつもりじゃあなかったんだけれど……」
「迷惑だとは思っていないから気にするな。珍しいとは思ったが……セシルがいないからか?」
 今でこそ、セシルのほうが多少彼女よりは背が高いのだが、数年前までは二人の身長はほとんど変わらないくらいだった。
 それどころか、時期によってはローザのほうが背が高かったこともあったのだ。
 どうやら身長が伸びないことをセシルが気にしているらしいと、それはカインは知っていたし、彼女も知っているはずだった。
 だから気を使っているのだろうと、予想はつく。
「あなた、本当によく気が付くわね」
 カインの問いに、是とも否とも答えず、腕の中の彼女はくすくすと笑う。
 その様子からすれば、カインの予想は外れていないのだろう。

 ベンチに彼女を下ろし、座らせる。
 痛むことがばれたからだろうか、彼女は靴を脱いでしまった。
 白い素足が目に映る。
 幼い子どもの頃ならともかく、この歳になってしまうと素足を目にすることなどほとんどなく、だからだろうか肌の白さが妙に眩しく見える。
 滑らかな肌だが、踵や親指の付け根のあたりが真っ赤になっている。
 皮が剥けたり血が滲んでいるところはないようだが、もう少し歩かせていたら、そうなっていたはずだ。
 とはいえ、今の状態でも見ていて痛々しい。
「そのまま靴は自分で持ってろ」
「え?」
「おぶってやるから……ほら」
 ベンチに座る彼女の前に膝をつく。
 返事も聞かず背を向けたのは、彼女に有無を言わせないためだ。返事を待っていては、遠慮するに決まっている。
 少しして、おずおずと彼女が背に乗る。
「本当にごめんなさい……ありがとう」
 細いすんなりとした腕が首に回された。
 その傷ひとつない柔らかな白い腕に、ほんの少しどきりとした。


「なんだか懐かしいわ」
 ふいに、背中の彼女がぽつりと言った。
「……そうだな」
 昔は、ローザのことも、セシルのことも、よくこうやっておぶってやった。
 転んで膝を擦り剥いただとか、ちゃんとした理由があればまだマシで、ただ遊び疲れてもう歩きたくないなどと言い出したのを背負って帰ったこともある。
 そんな昔のことを思い出しながら歩き続ける。
 冬の冷たい空気の中、背中と彼女の腕が絡む首筋だけが温かい。
「……何かお礼しないといけないわね」
「別に構わない。……初めてでもないしな」
 つい先ほどの彼女の発言を引き合いに、少し冗談めかして言うと、ローザが笑う。
「そんなつもりで言ったんじゃなかったのに……もう」
「気にするなってことだ。セシルなんて今でもたまに背負ってやってるからな」
「ええ?どういうこと?」
「最近だと三日前だな。食堂で飯を食いながら寝たから部屋まで背負って帰ってやったばかりだ」
 朝から授業を受けて、終わるなりシドのところに出掛けて、門限ぎりぎりに帰ってくる。連日それを繰り返して疲れていたのだろうが、さすがに食事を摂りながら寝るヤツがいるか、と呆れたものだ。
 カインの話にしばらくクスクスと彼女は笑い続けていた。

 やがて、ふと彼女が何か思いついたのか、声を上げた。
「あ……そうだわ」
「なんだ」
「お礼……マフラーと手袋でも編むわ。使ってくれるかしら?」
「急にどうした」
「……昔のことを思い出したら、あなたとセシル、よくお揃いのマフラーとかしていたなって思って」
 ああ、そんなことか、とカインも懐かしく思う。
「母さんが毎年作っていたからな」
 母が亡くなってもう数年が経つ。ようやくこんな風に何気なく話題に出せるようにもなった。
 彼女はそうだったのね、と囁くように優しく言った。
「じゃあ、セシルとお揃いにしてあげましょうか?」
 ほんの少ししっとりとした空気を吹き飛ばすかのように、彼女はくすりと笑いながらそう続けた。
「……さすがにそれは……」
 その光景を想像してみて、すぐにあり得ないなと首を振った。
「嫌?」
「嫌というか……使いづらい、な」
 何と答えたものかと、妙に回りくどい言い方になってしまった。
「冗談よ。私だってせっかくだからちゃんと使ってもらいたいもの」
「そうしてもらえると助かる」
「相変わらず、あなたの手、冷たいんだもの。寒くないの?」
 セシルと似たようなことを言うな、と思う。
 どうやらカインは体温が低いのだろう。手が触れると、冷たいとよく言われる。
「俺は別に寒くもなんともないんだが……すまん、冷たかったか?」
 そう答えながら、ドレスの裾越しとは言え、彼女の脚に触れていることをふいに意識してしまう。
「あ、ううん、私は大丈夫だけれど」
 背後で彼女が首を振っている気配がする。
 顔は見えないけれど、背中越しに伝わるさまざまな動きや、耳元にかかる息使いで、表情よりもずっと精緻な感情が伝わってくるような気がする。
「でもやっぱり手袋は作らせて?」
「……ああ、頼む」
「うん、任せて」
 やはり表情は見えないまま、彼女が頷くのだけが分かった。


 やがてファレルの屋敷が見えてきた。
 もう少しだけ、遠くにあればよかったのに。
 背中に彼女の体温を感じながら、残念に思った。




書きたかったシチュエーション書いたから満足した。
男の子視点で女の子にどきどきしてる感じって、書くの難しいね!!!
あんまり生々しくはしたくないので、こうなんか微妙な感じを……そうか、今日のテーマあれだ、初恋。もしくは片思い。


明日こそセシロザです。

突然ですが

バレンタインがもうすぐですね。

なので突然ですが小話を上げてみます。
もう2、3本くらいネタがあるので、明日明後日で小出しにしようかと。
もっともあの世界にバレンタインなんて行事があるはずがないので、バレンタインにちなんだテーマ色々でお送りします。

今日はチョコレートの話。

ちなみにがっつり恋愛話ではありません(笑)
なんとなくカイセシっぽい雰囲気を出しつつはあるつもりですが、たぶんセシルとカインが直接あれこれやりとりする話は1本もないと思いますw



「はんぶんこ、ね」
 隣に座った少女はそう言うと、箱の中に綺麗に並べられていたチョコレートを、ひとつ、ふたつと数え始めた。
 そんな無邪気なリディアの様子を見つめながらセシルは小さく笑う。

 ホブス山を下りて最初の村に到着したのは夕方には少し早い時間だった。
 ファブールの城下まではもうあと数日だ。
 村にある唯一の雑貨店に立ち寄ると、チョコレートが売られているのを見つけた。
 こんな小さな村では珍しいものだろう。
 ミストからずっと一緒に旅をしている少女が喜ぶだろうか、と買い求めて宿に戻った。
 リディアに箱を手渡すと、一瞬きょとんとした顔をして、
「ほんとうにいいの?」
と尋ねられた。
 彼女にとってもチョコレートは珍しいものだったようだ。
「いいよ。たくさん頑張ったからね」
 ご褒美だよ、と言うと、ありがとうとリディアが笑った。
 
「むっつあるから、みっつずつ。ね?」
「全部リディアが食べていいんだよ」
 そのつもりで買ってきたのだけれど、彼女はセシルと分けるつもりらしい。
「セシルは、チョコレートきらい?」
「いや。甘いものは好きだけれど」
 苦手だから全部食べていいよ、とそう答えれば良かったのかもしれない。
 けれど、深い森の色をした瞳にまっすぐに見つめられると、嘘は言えなかった。
「じゃあ、はんぶんこだよ」
 そう言って、リディアはセシルの掌にチョコレートの粒を三つ載せた。
「ありがとう」
 チョコレートをというより、少女の優しさを受け取ったような気がする。
 セシルが礼を言うと、隣に座るリディアはにっこりと笑う。
 
「いただきます」
 食事の時のようにきちんと挨拶をして、けれどもう待ちきれなかったのだろう。
 リディアはきらきらとした目でずっと見つめていたチョコレートを、すぐにぱくりと一粒口に入れた。
「あまーい!」
 両手を頬に当てて、リディアが声を上げる。
 美味しいものを食べたときに、ほっぺたが落ちそうと言うけれど、まるで頬が落ちないようにと抑えているようで、可愛らしい仕草にセシルは思わず小さく笑う。
 すぐに二粒目を頬張った彼女を見つめながら、セシルも自らの掌に載せられたうちの一つを口に運んだ。
 砂糖の甘さがミルクの優しい味に溶けて、そこにほんの少しカカオのほろ苦い味が残る。
 甘い物を口にすると、ほっとするのは何故だろう。
 少女のために買ってきたつもりだったのだけれど、口内に広がる安堵する味に癒やされているのはセシルのほうだ。
 
 そんなことを考えていると、隣から熱心な視線が向けられていることに気が付いた。
「リディア?」
 どうかした?と尋ねようとして、空っぽになった箱が目に入る。
 ああ、そういうことか、と腑に落ちる。


「二人で仲良く分けてね」
 セシルがまだ幼い頃、親友の母がそう言ってよくお菓子をくれた。
 チョコレートだったりクッキーだったり、時には飴玉だったり。
 貰ったお菓子を、カインと二人で半分ずつ分け合う。
 昔から甘いものは大好物で、いつも先に食べ終えてしまうのはセシルの方だった。
 ちゃんと平等に分けたのだから、同じ数ずつのはずだ。それは分かっている。
 けれども、まだお菓子の残っている親友が羨ましくて、じっと見つめてしまう。
 そうすると結局最後には、カインは残っていた自分のぶんのお菓子をセシルに分けてくれるのだ。
 
 最初はそんなやりとりをよくしていて、それからもう少し大きくなると、半分するのではなく、カインはセシルに最初から多くをくれるようになった。
 十をいくつか超えたくらいになると、甘いものはいらないから全部お前にやる、と言うようになって、そして最終的にはそんなやりとりすらしなくなったのだ。
 例えばコース料理の最後に出てくるデザートは、当たり前のようにセシルが二人分食べてしまう。
 カインとの間では、それがセシルの「当たり前」だった。
 
 ふと今更に気が付いた。
「甘いものは嫌いだ」
と、そうはっきりと彼から聞いたことはなかったということに。

 ――すべては彼の優しさだったということに。
 

 
 
「はんぶんこ、しようか」
「え?」
 リディアがくれた三つのチョコレート。
 一つは食べてしまって、あと二つまだ残っている。
「はい」
 二粒のチョコレートの片方を、セシルはリディアの口に入れてやる。
 そして残った最後の一粒を自分の口に入れた。

 こんなチョコレートの小さな数粒にもたくさんの思い出があるのだ。
 ミストで別れたきり、安否すらわからない親友。
 甘いはずのチョコレートが、先ほどよりもずっと苦い。
 
「おいしいね」
 セシルを見上げて笑う少女に、笑顔を作り、そうだねと答える。

「また、はんぶんこしようね」
「……ああ」
 リディアが耳元で囁くように告げた言葉に頷きながら、今度ははじめから彼女のほうが多くなるように分けないとな、と思った。




 いつも貰っていた「当たり前」の優しさが、今はあまりにも遠くて。
 思い出の中にしかないそれはあまりにも儚い。
 チョコレートのように、甘くて優しい思い出を、壊れないように、壊さないように。
 どこまで旅を続ければいいのだろうか。


ということで、セシルと子リディアでした。

だいたい下に兄弟がいる人は、カインと似たような目にあってると思います(笑)。
ウチだけじゃないと思うんだけどな……。
さっさと自分の分を食べちゃったのが悪いのに、なんであんな物欲しそうに見てくるんだ、と子どもの頃はよく思ってました。
カインみたいに人間が出来てないので、分けてやることは絶対にありませんでしたがw

たまに甘いものが出てくる話書いてますが、別にカインは甘いものが嫌いなわけじゃないんです。
なんだかんだと割と相手に尽くすタイプだと思うんだよね、カインは。


ではまた明日。
明日はセシルとローザかなぁ……。